エネルギー応用基礎学分野 -京都大学エネルギー科学研究科-
土井研究室 教授  土井 俊哉 
准教授  (川西 咲子) 

土井研究室の研究概要

 「21世紀はエネルギーの時代」と言われ、エネルギー問題は世界的な課題です。 太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーだけで世界のエネルギー需要をまかなえば、CO2の排出を0にすることができます。また、自然エネルギーで発電したクリーンで安価なエネルギーを潤沢に使えば廃棄物をリサイクルすることで資源問題の解決につながります。 つまり、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーだけで世界のエネルギー需要をまかなえれば、 資源・環境問題に直面することなく人類は豊かな21世紀を謳歌できるはずです。
 土井研究室は、21世紀のエネルギー問題および環境・資源問題の解決のために、 高度な成膜技術、結晶成長技術、結晶方位制御技術を駆使して高性能なエネルギーデバイスの研究開発を進めています。

主な研究テーマ

Ⅰ結晶方位を揃えた高温超伝導線材の開発

 試算によれば、 地球上の砂漠のわずか4%の面積に太陽電池(効率10%)を敷き詰めて発電するだけで、 全世界の消費エネルギーを電気エネルギーとして供給できます。これは技術的には可能です。 残る問題はどのようにして世界中に送電線を敷設するのか、だけなのです。 通常の送電線に使われている銅線の場合、電気抵抗の存在によって電気エネルギーの一部が 熱に変換されて損失となるため、送電距離が長くなるほど送電ロスは大きくなります。しかし、電気抵抗がゼロである「超伝導」送電線が開発されれば、原理的にはロスなく 世界中に送電できるようになります。
 高温超伝導体はどこでも手に入る液体窒素(皮膚科にもおいてあります)に漬けて冷却するだけで電気抵抗ゼロの状態となるので、その実用化が強く望まれています。この高温超伝導体を用いた電力ケーブルが実用化できれば,世界各地の砂漠に設置した太陽光発電装置を地球的規模の高温超伝導ケーブル網に組み込むことで、地球上の全てのエネルギーをまかなうことができるとの試算もあります。我々は独自の結晶方位制御技術を使って、1 km程度のスケールに渡って単結晶のように結晶の向きをx、y、z方向とも揃えることで、電気抵抗0で流せる電流(臨界電流)を従来の100倍に高めることに成功しました。現在、この技術を使って高温超伝導体の電線の開発を進めています。

YBCOの図

Ⅱ次世代MRI診断装置向け超伝導線材開発に関する研究

 X線による被爆なしに身体内部の立体画像が撮影できるMRI診断装置は、広く普及しています。しかしその運転には高価で資源の枯渇が心配されているヘリウムを液化して使用しなければなりません。そこで、MgB2の電線の開発が世界的に勧められています。通常、MgB2の電線は、MgB2粉末を金属管に充填して、細長い電線形状に引き延ばした後、高温で焼く方法(PIT法)で開発が進められています。当研究室では電子ビーム蒸着法を使用して金属テープ上にMgB2層を形成することで、従来より1桁以上多くの超伝導電流(抵抗0)を流すことに成功しました。現在、液化ヘリウムを使わずに冷凍機で運転できるMRI診断装置の実用化を目指して、この製造方法を使った新しいMgB2の電線の研究開発を進めています。

MgB2の図

Ⅲ薄膜型全固体電池の研究

 リチウムイオン電池はスマートフォン、ノートPCをはじめ、あらゆる携帯機器に使用されており、社会を支える重要なデバイスの1つである。近年は電気自動車や電力貯蔵装置への使用も急速に広がり、その重要性はますます高まっている。ところで、現状のリチウムイオン電池はその内部に可燃性の液体電解質を含んでいるため、これ以上の小型化が難しく、また大型化した場合には安全性に懸念がある。これらの課題を解決するために、全固体電池の研究が進められている。
 液体が必要なくなったことで、リチウムイオン電池を薄膜化して半導体デバイス上に混載で来る可能性が出てきた。半導体デバイス上に電池が混載できるようになれば、完全に自立動作するIoTセンサが完全に1チップ化できるようになる。
 しかし、リチウムイオン電池の正極活物質はLiイオンが出入りできる構造である必要があるため、正極活物質を薄膜形状で作製するためには500℃以上の高温が必要であるが、そのような高温にチップを晒すと他の半導体回路が壊れてしまう。その為、IoTセンサの1チップ化には正極活物質薄膜を室温程度の低温で作製する必要がある。
 そこで我々はイオンビームアシストを行いながら成膜する技術を発展させ、室温で正極活物質薄膜を作製でき、さらにLiイオンが動きやすい方向に結晶の向きを揃えることに成功した。現在、室温で薄膜型全固体リチウムイオン電池の作製に取り組んでいる。

全固体薄膜型電池の図

Ⅳ電動飛行機、空飛ぶ車用超高密度全固体電池の研究

 電動飛行機や空飛ぶ車の実用化には、高容量の電池の開発が不可欠である。電池の高容量化には新規材料の開発が様々なアプローチがあるが、我々は多層薄膜化することで、現状の2倍のエネルギー密度が達成可能であるとの試算をしている。 
 多層薄膜型全固体電池を作製するためには、低温成膜技術と多層化技術、そして高度は界面制御技術を必要とするが、我々はそれらの技術を開発済みであり、現在多層薄膜型全固体電池の試作実証の段階に取り組んでいる。また同時にイオンビームアシストを用いた非平衡プロセスを活用して、これまでには合成できなかった高エネルギー密度の新規正極活物質の発見も同時に進めており、飛行時間の大幅延長を可能とする新型電池の研究開発を進めている。

全固体電池の図